日本国内、海外の競馬場の訪問記です。こんなことしてていいのかなあ。でもやめられない。
そこに競馬があるから > クランジ競馬場 > クランジ競馬場 その31 ~クランジの終わりとマレーシア競馬・アジア競馬の今後~

クランジ競馬場の最終レースの口どり
*クランジ競馬場レポートのつづきです。
初めからお読みになる方はクランジレポートその1からどうぞ。
どうも。荷桁です。
さて、今回で何とまあ、書きも書いたり31本目のクランジ競馬場レポートということになりますが、よほどアクロバティックな展開がない限り、これがラストのクランジ競馬場レポートとなります。
一応、前回のクランジ競馬場グルメレポートをもって、荷桁がクランジ競馬場で見聞きしたことのほとんどは写真とともに書き尽くしてしまったので、もうあとはクロージングということになります。
このレポートではいったん最終レース終了後のクランジ競馬場の様子をさらっと見たのち、クランジ競馬場がなくなってしまったあとのアジア競馬界隈について思いを馳せたいと思いますので、ゆるゆるとお付き合いいただければ幸いです...

さて。そんなわけでクランジ競馬場のフィナーレだ。
だいぶ前のレポートで説明したきりなので、もう一度言っておくと、荷桁はクランジ競馬場が2024年10月で廃止というニュースを見て、2024年6月に生涯最後のクランジ競馬場訪問を敢行した。
10月で廃止にしてはずいぶん早く行ったじゃねえかという声もあるかもしれないが、こういうのは廃止が近づくにつれて、馬がいなくなって開催が縮小したり、混雑による入場制限や前売り券のみの入場なんてことが往々にして起こるので、まあ大事を取って、2024年6月30日を自分の中での最後のクランジ競馬場デーとしたのであった。

これまでのレポートでも述べた通り、クランジ競馬場のラストデーはうまく馬券で勝つことはできず、最終レースを終えてしまった。
最終レース後も、クランジ競馬場では場外発売が続くようで、UK(イギリス)の競馬場の第1レースのオッズが場内に映し出されていた。
まあ、さすがにここから取り返すような勝負をする気力はなかったので、おとなしく出口へと向かうことにする。


2007年クランジ競馬場にやってきた際にメシを食ったフードコート、まだその頃は屋根がついていなかったパドックに別れを告げる。
何度も言って申し訳ないが、この競馬場は、自分の中で初めて海外の競馬場訪問となった思い出の地。どうしてもおセンチな気分になるぜ。


ただ、まあ、そうおセンチな状態でばかりもいられない。
いろんな感情がわいてきて、どうも気持ちの整理がつかないままではあるが、ひとまず周囲の人の流れに乗って、出口に向かう。

さっさと日本に帰りたいわけでも、クランジに二度と来たくないわけでもないのだが、もう二度とクランジ競馬場で競馬を見ることはないんだと思うと、どうにも寂しい気持ちになる。学生の頃も、コロナが開けて再訪したときも「ああ面白かった、また何度でも来たいなあ」と思いながら帰ったのでなおのことだ。

なんてことをモヤモヤ考えているうちに、出口についてしまった。なんてことない顔でゲートを出るが、ああついに終わってしまったな、という感情がどうにも拭えない。


そのままMRTクランジ駅に向かう。
クランジ競馬場がなくなったら、もう二度とクランジ駅で降り立つこともないのだろうか。いや、もしかしたら廃競馬場となったクランジをまたふらっと訪問することもあるかもしれない。もし可能であれば、競馬博物館などの施設を残してほしいものだ・・・。
ってなことを考えていると、気が付けば都心に戻るMRTにぼんやり揺られていて、ここで自分の中のクランジ競馬場との付き合いは終焉となったのであった・・・。
クランジ競馬場の本当の最終日には行けなかったが、Youtubeに当日の様子を詳しく紹介している動画があったのでとりあえずはっておこう。
福山でも荒尾でもそうなんだが、こうして最後になると人がようけ来るというのが、余計に切ないよなあ・・・。
さあ、てなわけで、クランジ競馬場は2024年10月5日完全に廃止となり、ここにシンガポール競馬は182年にわたる歴史に幕を下ろしたのであった。

マレーシア・セランゴール競馬場
クランジ競馬場はマレー半島の競馬統括団体であるMRAの基幹競馬場であっただけに、東南アジアの競馬シーンに与える影響は大きい。
マレーシア・クアラルンプールのセランゴールターフクラブはクランジに代わって、自場を東南アジアの競馬の中心地にすべく、賞金の増額や国際トータリゼーターシステムへの投資で海外売り上げを伸ばそうと攻めの姿勢で対応している。
セランゴール競馬場はKLの郊外にあるので、クランジ的な理由で廃止になることは考えづらいが、国内での競馬人気をいかに醸成できるかという意味では課題が残るだろう。

在りし日のペナン競馬場
一方、MRAの一角だったペナンターフクラブはクランジの廃止とほぼ同時に、早々に白旗を上げクラブの解散を決議。2025年5月に最後のレースを終え、廃場となった。ペナン競馬場は都心近くの立地があだとなり、クランジと同じように開発圧力に屈する形での廃止となった。クラブとしても儲からない競馬を続けていてもしゃあいし、だったら土地を有効に使おうという、ある種合理的な判断であった。

マレーシア・イポー競馬場
そうなってくると、同じくMRAを構成するイポー競馬場のペラターフクラブはどうだというところになるが、こちらは競馬の継続方針を固めている。
ただ、競馬の売り上げをアップさせるというよりもクラブが所有する競馬場周辺の遊休不動産や遊んでいるスペースを再開発で活性化させて、競馬場をもっと市民の憩いの場やレジャー施設にしよう、というアプローチである。
やや苦しそうな感じがしないでもないが、市街地に位置しながらクランジやペナンほど、土地を明け渡せ的な圧力がかかりづらいであろうイポーにおいては、このアプローチは合理的と言えば合理的。加えて、イポー市の中心部は大した観光施設やレジャー施設、商業施設もないため、もし競馬場が魅力的な空間となれば、持続可能な競馬場運営となる可能性は大いにある。植民地時代から続くマレーシア競馬の火を消さないよう、イポーにも頑張ってもらいたいところだ。

マカオ・タイパ競馬場
マレー半島以外にも目を向けてみよう。
クランジ競馬場の廃止が発表されたのは2023年6月のことであったが、なんとその約半年後の2024年1月にはマカオのタイパ競馬場の廃止が発表されたのであった。マカオもマカオでもともと競馬運営がうまくいっていない中でやはり土地の再開発圧力には抗えなかったというイメージでの廃止であった。180年続いたシンガポールでさえ土地の開発圧力に屈したのだから、近代競馬の歴史が浅いマカオがバンザイするのは、まあ当然と言えば当然であった。クランジの廃止と因果関係があるとは言い切れないが、アジアの競馬の明暗がハッキリしだしたのがまさにこの2023年~2024年頃だったと言えよう。

タイ・ロイヤルバンコクスポーツクラブ競馬場
タイではコロナ禍で地方にあったコラート競馬場が休止、さらにはチェンマイ競馬場、ウドーンターニー競馬場が廃止と、もともと競馬産業が苦しかったところに、コロナで大打撃を受けた形になっている。
残る1場のロイヤルバンコクスポーツクラブもバンコクの都心の一等地にあることから、土地に対する再開発の圧はアジアの競馬場の中でも特にハンパないと言えよう。
ネット投票や国際トータリゼーターシステムの導入も遅れていることから、自国内での現地馬券の売上を上げなくてはならないというなかなか厳しい状況の中、なんとか頑張ってほしいところだ。

メトロマニラターフクラブ競馬場
一方で海を隔てたフィリピンでは、競馬が反転攻勢に打って出ている。
フィリピンの競馬は、コロナ禍で大打撃を受け3場あった競馬場のうち実に2つの競馬場が廃止になり、終焉の危機に瀕していたのだが、フィリピン国内にてパンデミック中に違法なオンライン闘鶏が蔓延し、八百長をしたと思われる関係者が大量に失踪するなどいろんな意味で社会問題化してしまったのである。
フィリピン政府は、違法賭博が蔓延するくらいなら税収を生んでくれる公営ギャンブルの方がまだマシだということで、競馬に白羽の矢が立つ形で、新たな競馬団体が発足。新競馬場も建設され、当面は2団体、2競馬場で競馬運営に当たっていく動きになっている。国際化への鼻息も荒く、日本・香港・韓国に次ぐ、アジア第4の競馬市場となるべく、今後の発展に期待がかかっている。
とまあ、このように日本にいるとなかなか意識しないが、少しばかしアジアに目を向けるだけで、競馬を取り巻く状況は各国で実に差分があるのだ。
クランジ競馬場の廃止をきっかけに、競馬という名の文化産業が、その国の国策と、土地が持つ宿命的な経済価値によって、かくも分断された運命を辿ることが鮮明になった感じがする。
違法賭博を是正するための「国策の道具」として国を挙げて再生を図るフィリピンもあれば、たまたま不動産価値がある都市のいい場所に競馬場があったがために「土地の持つ経済的バリュー」という圧倒的な現実に屈し、静かに幕を引いたタイパやペナンもある。
馬券のネット販売が隆盛を極める日本にあっては、いまやかつてのように競馬場が消える日なんて誰も想像していないかもしれないが、コロナ禍に端を発した東南アジア競馬の静かなる激変は、娯楽の多様化や、いつの日か降りかかるかもしれない法改正の波を前に、日本の競馬もまた、その未来永劫の繁栄が約束されているわけではないのだと、静かに示唆しているように思える。
アメリカやヨーロッパでも競馬場の廃止は続いており、旅打ち好きに残された時間は確実に少なくなってきている・・・。

クランジ競馬場レポートの最後の最後に、クランジ競馬場のインフォメーションカウンターにあったコピーをのせておこう。
クランジ競馬場に掲げられていた「RACING NEVER ENDS(競馬に終わりはない)」という馬券販売会社Singapore Poolsのコピー。シンガポールの地から競馬がなくなった今、これほど皮肉な言葉はない。
たしかに、シンガポール競馬が幕を引いても、世界のどこかでレースは止まることなく続くんだろう。しかし、マカオ、ペナン、そして欧米でさえ競馬場が静かに消えていく現実を見れば、その「永遠」が何の保証もないことは明らかだ。
現地の競馬オヤジたちが慣れ親しんだ競馬場が、一等地の土地開発や経済合理性の前にあっさり屈する時代だからこそ、旅打ちを愛する我々は、競馬が永遠に続くことを願いつつ、フィリピンやマレーシアの地で懸命に未来を切り開こうと奮闘する競馬場や、伝統を守り続ける世界各地の競馬場の姿を、しっかりと目に焼き付けておく必要があるのではないだろうか・・・。
クランジ競馬場から始まった俺の海外競馬旅は、クランジ競馬場がなくなってからも、まだまだ続く。
そんなわけで、きっかけを与えてくれたクランジ競馬場に対しては「ありがとう、クランジ競馬場」との言葉で、レポートを締めたいと思いやす。
長きにわたり、お付き合いいただきありがとうございました。
>>次のレポートへ
*この競馬場が好きな方はこちらの競馬場もお好きだと思われます。
セランゴール競馬場 その1~いざマレーシア競馬~
ペナン競馬場 その1 ~再びマレーシア競馬へ~
フートー競馬場 その1 〜さらにベトナム競馬へ〜
フレミントン競馬場 その1 ~メルボルンカップ事始~
ムーニーバレー競馬場 その1 ~オーストラリア競馬~
カイントン競馬場 その1 ~もうひとつのカップ・デー~
ガルフストリームパーク競馬場 その1 〜アメリカ競馬事始〜
ポンパノパーク競馬場 その1 ~アメリカのハーネスレース~
フェアグラウンズ競馬場 その1 〜ニューオーリンズに競馬しにきた〜
ルイジアナダウンズ競馬場 その1 〜競馬旅行の運の尽き〜
マルサ競馬場 その1 〜いざ地中海競馬へ〜
ニコシア競馬場 その1 ~空路キプロスへ~
笠松競馬場 その1 ~名馬・名手の里~
浦和競馬場 その1 〜南浦和からバスでアクセス〜
*クランジ競馬場に関する記事は以下にもあります。
クランジ競馬場 その1 ~いきなりお詫び~
クランジ競馬場 その2 ~クランジ馬券奮闘記?~
PR
ブログ内検索
カテゴリー
最新記事
(11/08)
(09/28)
(09/28)
(09/28)
(09/28)
プロフィール
HN:
荷桁勇矢
性別:
男性
職業:
若隠居
趣味:
逃げ
このブログについて
このブログは「そこに競馬があるから」といいます。
競馬場巡りに魅せられてしまった筆者、荷桁勇矢(にげた ゆうや)が、日本の競馬場、海外の競馬場を訪れながらその様子をご紹介して行くブログです。
紹介している競馬場の情報は訪問当時のものですので、競馬場に行かれる際は最新の情報をご確認のうえ、自己責任で行っていただきますようお願いいたします。
またこのサイトの写真や文章は基本的に無断で使用されると困るのですが、もしどうしてもという方は荷桁までご連絡ください。そのほかご指摘やご質問がある方も荷桁まで直接ご連絡ください。コメント欄は管理が面倒そうなので当分オープンにはしないつもりです。悪しからず。
連絡先:
nigetayuyaあっとgmail.com
ツイッター:
https://twitter.com/YuyaNigeta
note:
https://note.mu/nigetayuya/
Flickr:
http://www.flickr.com/photos/nigeta/
競馬本紹介ブログ始めました。
荷桁勇矢の競馬本ガイド
競馬場巡りに魅せられてしまった筆者、荷桁勇矢(にげた ゆうや)が、日本の競馬場、海外の競馬場を訪れながらその様子をご紹介して行くブログです。
紹介している競馬場の情報は訪問当時のものですので、競馬場に行かれる際は最新の情報をご確認のうえ、自己責任で行っていただきますようお願いいたします。
またこのサイトの写真や文章は基本的に無断で使用されると困るのですが、もしどうしてもという方は荷桁までご連絡ください。そのほかご指摘やご質問がある方も荷桁まで直接ご連絡ください。コメント欄は管理が面倒そうなので当分オープンにはしないつもりです。悪しからず。
連絡先:
nigetayuyaあっとgmail.com
ツイッター:
https://twitter.com/YuyaNigeta
note:
https://note.mu/nigetayuya/
Flickr:
http://www.flickr.com/photos/nigeta/
競馬本紹介ブログ始めました。
荷桁勇矢の競馬本ガイド