日本国内、海外の競馬場の訪問記です。こんなことしてていいのかなあ。でもやめられない。
そこに競馬があるから > 荒尾競馬場 > 荒尾競馬場 その7 〜荒尾に来たぞ武豊〜
荒尾競馬場は地方競馬の中でも特に空が広く感じる。
*荒尾競馬場レポートの続編です。
初めからお読みになる方は荒尾競馬場レポートその1からどうぞ。
さて、2度目の訪問となった荒尾競馬場レポートの続きです。
前回申し上げたとおり、この日は廃止間近の荒尾競馬だったが、お客の入りがよかった。なぜならこの日のJRA交流レースに武豊騎手が騎乗すること。そしてレディースジョッキーズシリーズ(LJS)の荒尾ラウンドが行われるという盛りだくさんの日だったからだ...
今回、武豊騎手が騎乗したのは指定交流のシーサイドカップだ。
全部で10頭立て、中央所属馬が5頭、荒尾所属馬が5頭というメンツだ。中央からは武豊騎手を筆頭に、中舘騎手、薫騎手、丸田騎手、の4騎手が。佐賀から山口勳騎手と鮫島克也騎手が、地元からは杉村騎手、尾林騎手、吉田騎手、佐藤騎手が参戦するという多彩な顔ぶれとなった。
今回のレースは1着賞金は50万円。しかも武豊騎手の騎乗するのは道営帰りの中央未勝利馬ということで、武豊騎手は自分が来る事で、少しでも荒尾を盛り上げたいという思いがあったのだろう。話に聞く所によると、荒尾のトップジョッキー杉村騎手が武豊騎手に直接依頼して来場が実現したのだそうだ。
こないだ園田に行ったときにも見たけど、交流レースに乗りに行ったらついでにトークショーしたりして、地方競馬に寄与しようという姿勢があるから武豊はなんだかんだ競馬界にとって偉大な男なんだろうな。馬券の対象としてはいろいろと考えてしまうところはあるが。
その効果があってかパドック周りはすごい人だかり。さすがの人気。ダートグレードも少ない荒尾だと、武豊が来るというのはすさまじいことなんだろうな。
そして武豊登場。一斉にシャッターが切られる。
同じくらい注目を集めていたのは、中舘英二騎手。
先攻力が買われたのか、この日は1番人気につけていた。
あまりに珍しい存在なのか、我慢できなくなった黒板係のおばさんが武豊見たさに窓から顔を出しているのが微笑ましい。なんとなくこのレースのときだけパドックの熱気が高まった。おそらく、武豊騎手がいなければこの空気感は醸し出されなかっただろう。やはり、なんだかんだ日本一の騎手ということを実感した瞬間であった。
そんなパドックで印象に残ったのは荷桁の隣でこの光景を見ていた地元民と思われるじいさんが、ぼそっと「中央の厩務員はしっかりとネクタイ締めとると・・・」とつぶやいたことだった。
確かに、写真のとおり、中央の馬を引く厩務員はみなワイシャツやネクタイなどしっかりとした恰好をしているが、荒尾の厩務員はみなGパンやウインドブレーカーなど、普段の作業着とほとんど変わらない感じで馬を引いていた。
おそらく何十年と荒尾に通い続けたであろうこのじいさんが発した言葉は言葉どおりに捉えれば、単に服装が違うなあということで済んでしまうのかもしれない。しかし、その言葉の向こうにはもっと大きい、じいさんが感じた絶対超えられない中央と荒尾との差、ギャップがあったに違いない。自分の大好きな荒尾競馬はジリ貧でなくなってしまうが、中央では何千万、何億の賞金で大レースが続けられて行く、そんな寂しさがにじみ出てくるような気がして来たのである。
ここからは荷桁の勝手な予想だが、地元のじいさんたちはこの手のレースでは絶対に地元の馬を絡めた馬券は買わないはずだ。
競走馬のレベルが低い荒尾では、交流競走において中央の馬に地元の馬が勝つことはほとんどない。それどころか、3着に入ること自体も難しい。長年やっている荒尾の競馬オヤジたちは、そのことを充分に分かっているはずだ。
これまではそんな中でも荒尾の馬が一矢報いて穴を開ける馬券も押さえていたかもしれない。ひょっとしたらの夢を荒尾の馬にこめる希望を持っていたかもしれない。しかしオヤジたちが夢をこめて来た荒尾競馬はもうなくなってしまう。荒尾のじいさんたちは所詮、夢は夢だったということを嫌というほど思い知らされただろう。
だから、絶対にじいさんたちはこのレースはどんなにつまらない馬券だと思っても、中央の馬から買ったはずなのである。ここで地元の馬から買ってしまうということは荒尾競馬と決別できないことを意味するような気がするのだ。
結局レースは丸田騎手の騎乗する中央の馬が快勝した。
それ以下も1着ー4着までを中央勢が独占するという結果になった。荒尾の馬たちは一矢も報えなかったのである。
しかし、ゴール直後のスローVTRに群がる地元競馬オヤジたちの様子をうかがっていると、オヤジたちの多くが地元で長らく頑張っていた荒尾のテイエムテンガネを絡めた馬券を買っていたのだった。
最後の最後に地力を見せて3着とハナークビ差の5着まで来たテイエムテンガネ。みんな「もう少しでテイエムが絡んだのになあ!」とひざを叩きながら悔しがって、馬券を見せ合っていた。
あれやこれや言ったが、結局多くの人が、地元の馬を応援していたのである。かくいう荷桁もしっかりテイエムテンガネの3着づけ3連単を買っていたものだから、オヤジたちと一緒にめちゃくちゃに悔しがったのは言うまでもない。
「まあ、よく追い込んだわ。がんばった。」と1人のじいさんが言うと、それを合図にしたように、テレビに群がっていたオヤジ連中は再びぞろぞろパドックへと戻って行った。
その一連の流れには荒尾競馬の行く末に腹を括りながらも、地元の馬を純粋に応援する非常に気持ちのいい競馬ファンの姿があるように感じられた。
今回は珍しく、奇麗な感じになってしまったな。
次回からは感傷的にならずに荒尾をご紹介していきます。多分。
>>荒尾競馬場レポートその8へ
*この競馬場が好きな方はこちらの競馬場もお好きだと思われます。
佐賀競馬場 その1 ~鳥栖まで戻って佐賀へ~
浦和競馬場 その1 〜南浦和からバスでアクセス〜
名古屋競馬場 その1 ~あくまで土古~
笠松競馬場 その1 ~名馬・名手の里~
福山競馬場 その1 ~私的福山競馬史~
金沢競馬場 その1 ~金沢けいば冬景色~
姫路競馬場 その1 ~初夏だけのパラダイス~
水沢競馬場 その1 ~水沢江刺に競馬のためだけに~
*荒尾競馬場に関する記事は以下にもあります。
荒尾競馬場 その1 ~そしてとうとう九州競馬へ~
荒尾競馬場 その2 ~まずはパドックへ~
荒尾競馬場 その3 ~炭鉱はなくなれど~
荒尾競馬場 その4 ~荒尾競馬グルメ~
荒尾競馬場 その5 ~新幹線もできたことだし~
荒尾競馬場 その6 ~いざ有終の荒尾へ~
荒尾競馬場 その7 ~荒尾に来たぞ武豊~
荒尾競馬場 その8 ~2011年ljs 荒尾ラウンド~
荒尾競馬場 その9 ~トークショーやら表彰式やら~
荒尾競馬場 その10 ~忘れグルメを食べにきました~
荒尾競馬場 その11 ~特観席からの眺望~
荒尾競馬場 その12 ~荒尾競馬場 看板ギャラリー前篇~
荒尾競馬場 その13 ~荒尾競馬場 看板ギャラリー後篇~
荒尾競馬場 その14 ~荒尾競馬 最後の徘徊~
全部で10頭立て、中央所属馬が5頭、荒尾所属馬が5頭というメンツだ。中央からは武豊騎手を筆頭に、中舘騎手、薫騎手、丸田騎手、の4騎手が。佐賀から山口勳騎手と鮫島克也騎手が、地元からは杉村騎手、尾林騎手、吉田騎手、佐藤騎手が参戦するという多彩な顔ぶれとなった。
今回のレースは1着賞金は50万円。しかも武豊騎手の騎乗するのは道営帰りの中央未勝利馬ということで、武豊騎手は自分が来る事で、少しでも荒尾を盛り上げたいという思いがあったのだろう。話に聞く所によると、荒尾のトップジョッキー杉村騎手が武豊騎手に直接依頼して来場が実現したのだそうだ。
こないだ園田に行ったときにも見たけど、交流レースに乗りに行ったらついでにトークショーしたりして、地方競馬に寄与しようという姿勢があるから武豊はなんだかんだ競馬界にとって偉大な男なんだろうな。馬券の対象としてはいろいろと考えてしまうところはあるが。
その効果があってかパドック周りはすごい人だかり。さすがの人気。ダートグレードも少ない荒尾だと、武豊が来るというのはすさまじいことなんだろうな。
そして武豊登場。一斉にシャッターが切られる。
同じくらい注目を集めていたのは、中舘英二騎手。
先攻力が買われたのか、この日は1番人気につけていた。
あまりに珍しい存在なのか、我慢できなくなった黒板係のおばさんが武豊見たさに窓から顔を出しているのが微笑ましい。なんとなくこのレースのときだけパドックの熱気が高まった。おそらく、武豊騎手がいなければこの空気感は醸し出されなかっただろう。やはり、なんだかんだ日本一の騎手ということを実感した瞬間であった。
そんなパドックで印象に残ったのは荷桁の隣でこの光景を見ていた地元民と思われるじいさんが、ぼそっと「中央の厩務員はしっかりとネクタイ締めとると・・・」とつぶやいたことだった。
確かに、写真のとおり、中央の馬を引く厩務員はみなワイシャツやネクタイなどしっかりとした恰好をしているが、荒尾の厩務員はみなGパンやウインドブレーカーなど、普段の作業着とほとんど変わらない感じで馬を引いていた。
おそらく何十年と荒尾に通い続けたであろうこのじいさんが発した言葉は言葉どおりに捉えれば、単に服装が違うなあということで済んでしまうのかもしれない。しかし、その言葉の向こうにはもっと大きい、じいさんが感じた絶対超えられない中央と荒尾との差、ギャップがあったに違いない。自分の大好きな荒尾競馬はジリ貧でなくなってしまうが、中央では何千万、何億の賞金で大レースが続けられて行く、そんな寂しさがにじみ出てくるような気がして来たのである。
ここからは荷桁の勝手な予想だが、地元のじいさんたちはこの手のレースでは絶対に地元の馬を絡めた馬券は買わないはずだ。
競走馬のレベルが低い荒尾では、交流競走において中央の馬に地元の馬が勝つことはほとんどない。それどころか、3着に入ること自体も難しい。長年やっている荒尾の競馬オヤジたちは、そのことを充分に分かっているはずだ。
これまではそんな中でも荒尾の馬が一矢報いて穴を開ける馬券も押さえていたかもしれない。ひょっとしたらの夢を荒尾の馬にこめる希望を持っていたかもしれない。しかしオヤジたちが夢をこめて来た荒尾競馬はもうなくなってしまう。荒尾のじいさんたちは所詮、夢は夢だったということを嫌というほど思い知らされただろう。
だから、絶対にじいさんたちはこのレースはどんなにつまらない馬券だと思っても、中央の馬から買ったはずなのである。ここで地元の馬から買ってしまうということは荒尾競馬と決別できないことを意味するような気がするのだ。
結局レースは丸田騎手の騎乗する中央の馬が快勝した。
それ以下も1着ー4着までを中央勢が独占するという結果になった。荒尾の馬たちは一矢も報えなかったのである。
しかし、ゴール直後のスローVTRに群がる地元競馬オヤジたちの様子をうかがっていると、オヤジたちの多くが地元で長らく頑張っていた荒尾のテイエムテンガネを絡めた馬券を買っていたのだった。
最後の最後に地力を見せて3着とハナークビ差の5着まで来たテイエムテンガネ。みんな「もう少しでテイエムが絡んだのになあ!」とひざを叩きながら悔しがって、馬券を見せ合っていた。
あれやこれや言ったが、結局多くの人が、地元の馬を応援していたのである。かくいう荷桁もしっかりテイエムテンガネの3着づけ3連単を買っていたものだから、オヤジたちと一緒にめちゃくちゃに悔しがったのは言うまでもない。
「まあ、よく追い込んだわ。がんばった。」と1人のじいさんが言うと、それを合図にしたように、テレビに群がっていたオヤジ連中は再びぞろぞろパドックへと戻って行った。
その一連の流れには荒尾競馬の行く末に腹を括りながらも、地元の馬を純粋に応援する非常に気持ちのいい競馬ファンの姿があるように感じられた。
今回は珍しく、奇麗な感じになってしまったな。
次回からは感傷的にならずに荒尾をご紹介していきます。多分。
>>荒尾競馬場レポートその8へ
*この競馬場が好きな方はこちらの競馬場もお好きだと思われます。
佐賀競馬場 その1 ~鳥栖まで戻って佐賀へ~
浦和競馬場 その1 〜南浦和からバスでアクセス〜
名古屋競馬場 その1 ~あくまで土古~
笠松競馬場 その1 ~名馬・名手の里~
福山競馬場 その1 ~私的福山競馬史~
金沢競馬場 その1 ~金沢けいば冬景色~
姫路競馬場 その1 ~初夏だけのパラダイス~
水沢競馬場 その1 ~水沢江刺に競馬のためだけに~
*荒尾競馬場に関する記事は以下にもあります。
荒尾競馬場 その1 ~そしてとうとう九州競馬へ~
荒尾競馬場 その2 ~まずはパドックへ~
荒尾競馬場 その3 ~炭鉱はなくなれど~
荒尾競馬場 その4 ~荒尾競馬グルメ~
荒尾競馬場 その5 ~新幹線もできたことだし~
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