日本国内、海外の競馬場の訪問記です。こんなことしてていいのかなあ。でもやめられない。
そこに競馬があるから > 名古屋競馬場 > 名古屋競馬場 その54 ~どんこはまだ俺たちの中に生きているぞ~
名古屋競馬場の最終レース後、ハズレてるんだけど出口の前で一応払い戻しを確認する人々
*名古屋競馬場レポートのつづきです。
初めからお読みになる方は名古屋競馬場レポートその1からどうぞ。
どうも。荷桁です。さあ、どんこ競馬場レポートもいよいよ54本目となりましたが、そろそろ終わりといたしましょう。今回のレポートが当ブログにおける、どんこ競馬場レポートの最終回でございます。
もう正直、どんこで書くことなどほとんどないっちゃないのですが、このレポートを書いている2024年夏の時点で、どんこの地ではサンアール名古屋の新建屋の供用が始まっていて、旧スタンドは解体工事が進み、まさにどんこは我々の記憶の中だけの存在になりつつあります。そんな流れもあり、まあここらで「ああ、そういえばどんこってこんな雰囲気だったなあ」としみじみ思いだせるレポートでもひとつやっておくかと、そんなことを考えてシコシコとキーボードをたたいている次第でございます。
ってなわけで、この記事では在りし日のどんこ競馬場の空気感を最後にゆるゆると振り返っていければと思います。タイトルは、まあ某有名漫画のセリフから持ってきているのですが、若干外している感じがあるので、あまり気にせずご一読いただければ幸いです...
さあ。そんなわけでどんこ競馬場だ。
どんこと言えば何だろう、ということをふと考えてみたが、今このタイミングで思うと、意外と重要なのは、どんこは最初から最後まで「昼間開催」の競馬場だったという部分だったかもしれない(荷桁が生まれる前は薄暮もやっていたらしいが)。
高知競馬場の復活劇以来、今や地方競馬場はナイター黄金時代を迎えたと言っても過言ではないだろう。どんこから弥富に移転した新・名古屋競馬場はもちろん、佐賀競馬や金沢競馬までナイター開催を開始している。水沢競馬場や浦和競馬場にも薄暮やナイターを見越した照明設備が増強されている状況を考えると、ピュアな昼間開催場はもはや笠松(調教用の照明のみ)と姫路(一切の照明設備なし)だけになってしまったと言ってもよい。
昼間開催のいいところは、四季の移ろいを感じることができる点だ。ナイターでは季節が感じられないということはもちろんないが、やはり太陽が出ていた方がそのへんは分かりやすい。
どんこ競馬はGW期間中に開催が当たることが多いので、GWあたりの天気がいい日にふらっとどんこ競馬場に行くのが帰省のときのお楽しみであった。
天気や気候がいいときはゴール板前あたりではなく、こんな感じで4コーナー寄りの空いているあたりに腰を下ろして、ボサーッとレースを見ながら、生ビールでも飲んで、馬券が当たらない時はスタンドに寝転んで昼寝でもしちゃう、くらいの楽しみ方をするのが良かった。
春先は、ただでさえまったりした雰囲気が漂うどんこ競馬場が、輪をかけてまったりしていたと思う。関係者や騎手も笑顔が多く、リラックスしていた感じだった。
このポカポカとした陽気の中、幹線道路脇ではあるが、言うても名古屋市郊外なので意外と静かなどんこ競馬場でコース近くまで寄って、ゲートの開く音、騎手の出す声、馬にムチが入る音、蹄の音などをつぶさに聴きながら、観戦をするのが、春の昼間開催の醍醐味であった。
とはいえ、夏が来ると状況は一変する。名古屋の夏は暑い。それはどんこも同様であった。
夏のどんこのパドックは、暑い。立っているだけで汗がしたたり落ちてくる。冷房が効いているのはグリーンホールと特観席とわずかな休憩室のみ。過酷な環境ではあったが、まあこうしてアブラゼミとクマゼミの乱暴な鳴き声を聴きながら、タオルを首にかけて、Tシャツ・短パン・サンダルで眺める青空のパドックというのも、それはそれで良かったなと思う。
もちろん、新しい名古屋競馬場も暑いことは暑いのだが、どんこのレトロな雰囲気にかかると、何故か夏が情緒的に感じられるんだよなあ。タワマンで感じる夏と、下町の長屋で感じる夏とは同じ気温でもなんか違う、そんな感覚ですな。
どんこのヤギたちも、夏場は階段の下に避難。
一方人間は一般スタンドの中でも、まだ幾分マシな第二スタンドの下に避難。
荷桁は売店の生ビールに避難。夏場のどんこは車で行きたくなるが、この一杯のために、汗をかきながら市バスで行ってたようなものだった。
秋になると、また状況が一変する。気候が良くなり、また好天の元での競馬日和が続く。
中央競馬はG1戦線が続き、地方競馬でも白山大賞典に始まりマイルCS、JBCなど交流重賞の大玉が続く季節だが、どんこでの目玉レースは晩秋の東海菊花賞くらいだった。どちらかというと一線級は名古屋大賞典や笠松グランプリに向けて、2歳馬はゴールドウィング、ライデンリーダー記念・ゴールドジュニアに向けて動き、その他の馬はいつもどおり淡々とレースをこなしていくというシーズンが秋であった。
こういう時のちょっと物静かなどんこというのも、のんびりしていて良かった。帰りの道すがらも、ちょいと散歩しがてら東海通の駅まで歩いてみるか、といった気分になったものである。まあ、だいたい馬券で手酷くやられて、ちょっと風に当たりたくなっている、というのが実態ではあるのだが・・・。
そして、季節は流れて、冬。名古屋は夏も暑いが、冬も寒い。
名古屋はあまり雪のイメージがないかもしれないが、琵琶湖・関ケ原かな流れてくる雪雲の影響で、ちょいちょい雪が降る。雪が降った日のどんこはしんしんとしていて、まあ寒かった。
こういう時には特観に逃げ込んで石焼カレーうどんを食うのが良かった。外の食堂の焼酎のお湯割りやワンカップもいいのだが、寒さであっという間に、水割りやぬる燗に変わってしまうからな・・・。
特観に入れない時はこちらの暖房が効いている休憩室も良かった。まあ一回入ってしまうと馬券買う気がなくなってしまうのがよくないが・・・。
冬場になるとはダウンジャケットを羽織ったもこもこした競馬オヤジたちがモニターの前で身を寄せ合って場外のレースに向かって雄叫びを上げる光景がよく見られた。もちろん冬以外の季節にもこうした場外レースの放送はされているのだが、なぜか冬場の方が人々が密集する感じがあるのよな。
クッソ寒い中、クッソ寒そうな服装で表彰式に駆り出されていたご当地アイドルもいたなあ。もう10年以上前だから彼女らも30歳とかになってるんだろうか。お元気にされているだろうか。
まあ、もちろん過酷な寒さの日だけでなく、穏やかな冬晴れの日と言うのももちろんあった。こういう日は観客も外に出て馬を眺める。むしろスタンドの裏やパドックの方が日が当たらず風が通ると寒かったんだよなあ。
毎週のようにどこかしらで重賞をやっている中央競馬と違って、1年通して基本的には淡々とB級・C級のレースをやっているどんこ競馬場であったが、四季折々、訪れたときどきの季節を感じられて、あまり意識していなかったけど、暑いだの寒いだの悪態をつきながら、そうした部分もなんやかんやコミで楽しんでいた自分がおったのかもしれないな。
そして2022年。春の訪れと共にどんこ競馬場は73年間の歴史に幕を下ろした。
どんこ開催、最終日2日前の2022年3月9日。荷桁はいつもどおり、松井屋で酒を飲んでいた。
とても天気の良い日だったが、ド平日ということもあって、最終日2日前にもかかわらず、場内は大賑わいという感じでもなく、まあいつものどんこに比べたら、ちょっと人が多いかな、くらいの客入りであった。
まだ幾分早い時間とあってか、松井屋さんにも客は自分だけで、店員さんたちが静かに腰かけていた。
背後では、店員さんたちがまかないを食べながら
「今年は桜が見に行けるね」
「桜ていえば、五条川のところが綺麗だって言うがね」
「いや、あそこは混んどるで、そなとこまでいかんでも、烏森のあたりにも立派な桜の木があるて」
などとしゃべっている。
大矢屋さんはどんこ競馬の移転と共に廃業するお店の一つで、この2日後には営業を終了するという状況であった。これまで、平日のどんこ開催日、笠松開催の裏、土日のJRAの発売日とあまり休みもなく営業をしてきたのであろう。
営業できなくなって寂しい、という話ではなく、「今年は桜が見に行ける」というポジティブな話を店員さんがしていたことで、何となく、自分の中でモヤモヤしていた想いが晴れたような気がした。
店を出るときに「これで最後になると思います。ありがとうございました。」と伝えたら店員さんから「なにい、まんだ明日も明後日もやっとるで、また来てね」と言われてしまって、ちょっと泣きそうになってしまった。
さあ、しかしいつまでもおセンチな気分には浸っていられない。
舞台は弥富に移って、これからも名古屋競馬の歴史は続いていくのだ。
しかし、どんこ競馬場というのは不思議な競馬場であった。施設もボロく、周辺環境もお世辞にはいいとは言えない。冷暖房も少なく、移転が決まってからは補修するのももったいないとばかりに壊れたまま放置された設備類もちらほら見られる有様で、快適性からは程遠い競馬場であった。ただ、それでも人はそんなどんこ競馬場に愛着を持って、通っていた。
上の写真はグリーンホールのラッキーに飾られていた謎の格言のひとつだが、どんこ競馬場はこの格言の通り、自身のことを見誤っていたのかもしれない。多分、競馬関係者が思っていた以上に、訪問する客にとってどんこは魅力的な競馬場だったし、みんな愛着を持っていた。施設はボロく、快適とは程遠い競馬場であったが、そんなどんこの本当の値打ちは、客にはちゃんと伝わっていたと思う。
っつーわけで、長きに渡ってお届けしてきたどんこ競馬場のレポートはここで終わりとなります。
廃止ではなく移転とは言え、故郷の競馬場がひとつなくなってしまったというのは、やはり寂しい部分はあるが、まあ荒尾や福山が乗り越えられなかった廃止の危機を、名古屋は無事に乗り越えて、未来へ向けてサステナブルな競馬運営に邁進していると考えれば、まあこれはこれでいいことなんだと思う。
皆様に置かれましても、新しい名古屋競馬場を楽しんでいただきつつ、どこかでふと、どんこが恋しくなったときには当ブログにお越しいただき、かつてのどんこの雰囲気を思い出していただければ幸甚でございます。
という訳で、名残惜しいところではありますが、どんこ競馬場レポート、これにて完結でございます。長きに渡ってお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
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